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高松高等裁判所 昭和35年(ラ)3号 決定 1960年3月18日

抗告人 都築重之

相手方 商工組合中央金庫

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は、抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨は、原決定を取り消す。本件競落は、これを許さない、との裁判を求める、というに在り、その理由は、別紙記載のとおりである。

案ずるに、抗告人は、昭和三〇年一一月二〇日相手方に対し本件競落物件等に対し、申立外伊予シルク協同組合の相手方に対する一切の既存の債務及びその後の債務を担保するため、根抵当権を設定し、その後相手方は、右協同組合に対し、昭和三一年八月二八日金一五〇万円を支払期を同年一一月七日と定め、また、同年一〇月一〇日金二〇〇万円を支払期を翌年四月九日と定め、さらに、昭和三一年一〇月一二日金二五〇万円を支払期を翌年四月九日と定めて、それぞれ貸し付け、その後昭和三三年一月三一日松山地方裁判所に右抵当権実行のため、本件競売の申立をし、原裁判所は、翌年一二月一六日右抵当物件中、本件競落物件につき競落許可決定をしたことは、記録上明らかである。

そこで、抗告理由につき以下順次検討することとする。

(イ)  凡そ、継続的取引により発生すべき債権等の担保のため設定せられた根抵当権の実行をするには、まず、当該継続的取引契約を解約することを要するかどうかというに、当該根抵当権設定契約において、その実行の時期又は制限につき特約の存しない限り、これを要しないものと解するのが相当である。本件につきこれをみるに、記録中の昭和三〇年一一月二〇日付の追加担保根抵当権設定契約証書の写(記録第一五丁以下)及び昭和二七年六月一〇日付の根抵当権設定契約証書の写(記録第六丁以下)によると、本件根抵当権については、かような特約はないものと認められるから、本件被担保債権の発生原因たる継続的取引に関する契約が解除せられたことを認めるべき資料はないけれども、それは、本件競売の申立を違法ならしめるものではない。

(ロ)  抵当権実行のための競売申立書記載事項に関する競売法第二四条には、申立書に競売申立人の代表者を記載すべきことは、定められていないから、本件競売申立書に本件競売申立人たる相手方の代表者の記載のないことは、所論のとおりであるけれども、それがため本件競売の申立が違法となるものではなく、また、競売開始決定書記載事項に関する同法第二五条には、競売開始決定書に競売申立人の代表者を記載すべきことは、定められていないから、本件競売開始決定書に本件競売申立人たる相手方の代表者の記載のないことも亦、所論のとおりであるけれども、これがため右決定が、従つて又、これに基くその後の手続が違法となるものではない。

なお、相手方が支配人を選任することができ、その支配人は、その権限として、相手方に代わりその事業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をなすことができることは、商工組合中央金庫法第二三条産業組合法第五条消費生活協同組合法第一〇九条商法第三七条第三八条の各規定により明らかであるから、相手方の支配人であることが記録中の登記簿抄本(記録第一〇〇丁)により明らかであるところの小林恒夫が選任した相手方の代理人米田正弌がなした本件競売申立(このことも記録上明らかである。)は適法である。

(ハ)  原決定書に、競落を許した競買価額を本件各競落物件毎に掲げてないことは、所論のとおりであるが、本件競売調書に、本件各競落物件につき各別に最高価競買価額が記載せられていることを考え合わせると、原裁判所は、本件各競落物件につき右各価格を以つて競落を許可したものと解せられるから、原決定書にその旨の記載のないことは、原決定取消の事由とはならないものと解するのが相当である。

以上の次第で、本件抗告理由は、いずれも失当であり、かつ、記録を精査するも、原決定には他に違法の点は認められないから、原決定は、相当であり、本件抗告は、棄却さるべきである。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条に従い、主文のとおり決定する。

(裁判官 石丸友二郎 安芸修 荻田健治郎)

抗告理由

本件競落許可決定は、左記の点において違法である。

(イ) 相手方は、本件競売申立をなすに先だち抗告人らに対し本件根抵当の解約をなすべきであるに拘わらず、これをなさずして本件競売申立に及び、原審は、このけん欠を看過して、競売手続を開始続行した。

本件根抵当権設定契約の特約中には、右解約がなくても、違法でないかのように看受けられる文言がある。然し、それは、不払の際に手形金の請求を肯定し、又、期限到来後の損害金の率を示したに止まり、解約手続なくして抵当権の実行ができるとは示していない。

(ロ) 本件競売申立書には、申立人たる相手方の代表者の表示を欠くのみならず、相手方が本件競売申立につき代理人の選任をなすにも、代表者が登場せず、相手方の使用人である松山支所の使用人小林恒夫がこれに代わり、当事者の代表としても、同人が表示せられ、資格を証する書面を見ても、相手方の代表者が何人であるかを知るに由がない。本件競売開始決定書も亦然り。

つまり、本件競売事件においては、能力者(代表者)の委任に基かないで無権代理人が競売申立をし、これに基き開始決定以後の諸手続が行なわれ、法にいわゆる続行すべからざる執行行為が続行せられ、競落手続に及んでおり、この違法は、競落許可決定の効力にも消長があると信ずる。

(ハ) 又、原決定は、数個の物件の競落を許容し乍ら各物件の最高価競落価格を示さず、二名以上の抵当権者のある場合、その代金を分かつに、各物件の負担部分を明らかになし得ないし、決定書にも一括競売する旨の記載なく、競売期日の公告並びに執行吏のなした競売手続を証する調書の旨趣が許可決定とも齟齬し、これまた違法である。

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